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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)3231号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を無期懲役に処する。

被告人が名瀬巡回裁判所の確定判決により執行を受けた一年六月一五日を右本刑に算入する。

原審並びに当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意は量刑不当の主張を出でないものであり、弁護人小林音八の上告趣意は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

職権をもって調査すると、被告人は一九五二年六月一〇日連合国軍隊の軍事占領下にあった琉球政府の裁判所たる名瀬巡回裁判所において強盗殺人、死体遺棄、私文書偽造同行使、電信法違反罪により無期懲役に処せられ、右刑は即日確定し、同日から同二八年一二月二五日奄美群島が日本に復帰するに至るまで一年六月一五日間該刑の執行を受けたことは記録中大島刑務支所長貴島武志の刑執行済証明書の記載に徴して明らかである。しかして奄美群島は昭和二〇年七月以降連合国軍隊の軍事占領下にあったところ、同二一年一月二九日米国海軍軍政長官より米国海軍軍政府布告第一号をもって、わが国に対し分離の通告があり、爾後、現行の日本法を軍政布告と抵触しない限り法律として施行すること並びに統治に関する一切の権限を北部南西諸島知事に委ねる趣旨の布告が発せられ、爾来奄美群島がわが国に復帰するにいたるまで裁判組織に多少の変更はあったけれども終始連合国軍に隷属する琉球政府の裁判所によって裁判が行われてきたものである。従って右琉球政府の裁判所による裁判はもとよりわが国の裁判権にもとづく裁判ではなく、外国の裁判でもないけれども同裁判については刑法五条の規定を準用すべきものであることは当裁判所大法廷判決(昭和二九年(あ)第二一五号、同三〇年六月一日言渡)の趣旨に徴して明らかである。さればわが国裁判所が右と同一の犯罪事実であること記録上明らかな強盗殺人の所為に対し、あらためて無期懲役刑を言渡す場合においても、さきに被告人が右琉球政府の裁判所による裁判にもとづいて刑の執行を受けた事実を斟酌してその受刑期間のうち相当の期間を刑法二八条仮出獄に関する規定の適用上既に「経過シタル」期間として通算される意味において同法五条但書により「刑ノ執行ヲ減軽」すべきものであり、原判決が被告人に対する刑が無期懲役であるとの理由で、刑の執行を減軽しなかったのは違法であって、刑訴四一一条一号により破棄を免れないものである。

よって原判決の支持した第一審判決の確定した事実に対し、刑法二四〇条後段の規定を適用し、所定刑中無期懲役を選択して被告人を無期懲役に処し、右巡回裁判所の判決によって執行を受けた期間の算入について同法五条を、訴訟費用の負担について刑訴一八一条を適用して主文のとおり判決する。

この判決は全裁判官一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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